ロシアのレコードについて

2018/03/20作成

2019/02/19更新

シチェルビナのレコードを調査するにあたって、キリル文字の海から拾ってきた情報が溜まってきました。共有用にまとめてみます。

シリンダー録音

1889年ごろから行われたジュリアス・ブロックによるシリンダー録音がロシアでの初のレコーディングになるようです。チャイコフスキーの肉声やアレンスキー、パプストらのピアノ録音をしており、文化的に貴重な資料でした。(MarstonからCDが出ています)

商業レコード

1899年頃、フランク・シーマン率いるZonophoneがロシアで製造したレコードがロシア初の商用レコードになるようです。その後Gramophone社が1903年にリガにあったZonophoneの工場を買い取りました。露Gramophoneは19世紀の巨人たちの貴重な音源をリリースし、第一次大戦前まで録音の活動を行っています。

■ ZON-O-PHONE RECORD(1901)
www.russian-records.comより

■ AMOUR GRAMOPHONE RECORD(1907)
www.russian-records.comより

続いて1900年中頃よりHomocordやOdeon、Pathé、Parlophoneなど海外のレーベルがロシア市場をターゲットにレコードをリリースしています。

ロシア国内資本のレーベルは1903年以降ポツポツと現れはじめますが、無断複製をした海賊盤レーベルも多く出現しました。(まだ著作権の概念がなく、ZonophoneをもじったZolofonなどの海賊盤レーベルがあったとか)。

レコードの生産工場はモスクワやサンクトペテルブルク、リガなど水資源があるところに建設されています。特にモスクワのアプレレフカに建設されたMETROPOLE RECORDSの工場は、革命以降レコードの主要生産拠点となりました。

革命にともない、外資レーベルが撤退します。第一次世界対戦前にあった美しいデザインのレーベルはこの時期でロシアから姿を消します。

アプレレフカの工場について

モスクワ州にあるアプレレフカ工場はソ連時代最大のレコード工場でした。
もともとこの工場はドイツ人によって建設され、最初期は海賊盤の製造を請け負っていた可能性があるようです。1911年にMETROPOLE RECORDSとして活動を始め、モスクワ、サンクトペテルブルク、リガで販売されました。

■ METROPOLE RECORDS(1911)
wikipedia.orgより

革命後この工場のレコードレーベルはCentropechat(1918-1922年)に名称が変わっています。すでにこの時期からレーニンの演説録音など政治的な目的にレコードが使われはじめていました。また、西側からの経済封鎖のためシェラック不足になり生産が止まっていた時期があったようです。

■ Centropechat(1919)
www.russian-records.comより

■ Gosprossnab NKP(1923年)、Muzpred(1924年-1931年、電気録音は1929年から)のレーベルはおそらくアプレレフカ工場で生産されたものと思われます。
1933年に連邦政府のテコ入れで大規模な工場の拡張が図られ、 Gramplasttrestレーベルが誕生します。アプレレフカ工場は従業員が1,000人の大規模な工場となり、大量生産する体制が整いました。

78rpm時代のロシア各地の工場

各地の工場で同じアプレレフカ工場と同じマスターを使ったレコードがプレスされています。

■ アプレレフカ工場 (Gramplasttrestレーベル)
追記予定

■ ノギンスク工場 (1935-1941 戦時中にタシュケントに移転)
1935頃 グリーント音記号、1936頃 НЗトロンボーン、1938頃 レコードにR旗、1940頃レコードの上にНЗ
НЗはНогинский Завод(Noginsk Plant)の頭文字

■ タシュケント工場 (1945-)
追記予定

■ リガ工場 (1940-1941,1945-)
追記予定

■ レニングラード工場 (1946-)
追記予定

これらの工場ではアプレレフカ工場と同じ音源がリリースされています。
ロシアのレーベルは時期ごとに色やデザインを変えていたようで、詳しい人であればレーベルを見ただけでプレス時期がわかるかもしれません。
補足ですが、モスクワのクラスノセルスキーにも工場があり、戦後SP盤の生産拠点になったようです。クラスノセルスキー工場 Красносельский Завод (-1964)

ソ連時代のレコードレーベルのデザインは生産工場のクレジットが前面に出ています。社会主義国家らしいもので、他の国のレコードにはあまりない特徴だと思います。

レコード時代のロシア各地の工場

1951年から、長時間収録できる33rpmのレコードが発売されています。
1950年代中ごろまではシェラックと塩ビを混ぜたものがレコードの材質になっているようです。そのため盤が硬く重く、ノイズもそこそこ出ます。

俗にいうガストナンバーがこれ以降クレジットされました。ГОСТ 5289-50は78rpm盤に使用され、アプレレフカ工場プレスの最初期のLPレコードはガストナンバーの代わりにTy-1 кпがクレジットされています。(何の略でしょうか)

各地のレーベル・ブランドは1964年にΜелодия (Melodiya)レーベルにまとめられます。

各工場別にまとめてみます

■ アプレレフカ工場

決まったレーベル名はなく海外のセラーからはAprelevka Plantと呼ばれていることが多いです。
Melodiya前は33とDolgoigrayushchaya(LPの意味)が中心デザインの盤、灯台(СССРロゴ)、松明デザインの盤と移っています。
1964年以降のMelodiyaではピンク色か紺色のレーベルでよく見ます。
1979年から稼働の工場で”Московский Опытный Завод “Грамзапись” (モスクワの新工場の意味)クレジットのレーベルもありました。

録音スタジオは工場とは別にあったのか、全連邦録音スタジオやモスクワ・ラジオ放送局で収録されている録音が多いようです。

【レーベルデザイン別のプレス時期】

間違いあるかも。情報求む!

■ レニングラード工場 ‎

初期はДолгоиграющая(LPの意味)と33ロゴデザインの盤(青色や橙色、乳白色のもの)がありました。
Аккордレーベルが1960-1964年頃のようです。
1964年以降のMelodiyaでは橙色か白色のレーベルでよく見ます。

Ленинградская студия грамзаписи (レニングラード・レコーディングスタジオ)が1959年より稼働。

【レーベルデザイン別のプレス時期】

■ リガ工場

初期はДолгоиграющая(LPの意味)と33ロゴデザインのRīgas Skaņuplašu Fabrika(リガ・サウンドトラックファクトリー)盤がありました。
Līgoレーベルが1958-1964年(?)
1964年からMelodiya(Melodijaと表記)に統合されました。
Melodiya前はカラフルな3色のもの、Melodiyaでは灰色や黄色のレーベルでリリースしていました。

Rīgas skaņu ierakstu studija(リガ・レコーディングスタジオ)が1958年から稼働。

■ タシュケント工場

Melodiya前は乳白色のДолгоиграющая(LPの意味)と33ロゴデザインの盤、Melodiyaでは黄色のレーベルでリリースしていました。
特にレーベル名はなかったようです。

■ 全連邦録音スタジオ

Всесоюзная Студия Грамзаписи、英文字でVSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISI、訳すとALL-UNION RECORDING STUDIO/全連邦録音スタジオ。1957年11月より稼モスクワの旧英国教会の建物を利用し、録音スタジオと音源の管理を行っていました。
モスクワでのレコードのラッカー盤マスターはここで作られていたそうです(地方録音は調査中)

VSESOYUZNAYA STUDIA GRAMZAPISIの頭文字をとったロゴデザインの「VSG盤」や、水色ト音記号ロゴのレーベルがあります。1964以降レーベルはMelodiyaに統合され、紺色のMelodiyaでリリースされています。
政府高官に向けたプレリリース盤だとよく聞きますが、数は割とあるように思います。
盤質はアプレレフカ工場プレスのものと同等だと思います。
他工場プレスの盤でもВСГの文字がクレジットされた盤があり、ВСГで新しく作ったラッカー盤マスター使ってる、という意味だと推測してます。

■ Mezhdunarodnaya Kniga

海外輸出用の「MK盤」と呼ばれるレーベルがあります。
ソ連では戦前からMezhdunarodnaya Kniga(国際出版貿易)を窓口に輸出を行っていました。
1950年代の終わりごろからちらほらレコードの海外向け販売を開始し、結構売れたのか、1964年以降外貨獲得手段として本格的にレコード販売を進める動きがあったようです。
Melodiya設立はこの流れを受けて、ロシア国内のでブランド統合を図るため行われたと推測しています。

初期は輸出用のMezhdunarodnaya Knigaクレジットのちょっと豪華なジャケットに、アプレレフカ工場プレスの「СССР灯台盤」又は「トーチ盤」の組み合わせで売られ、1960年辺りから輸出用のジャケットとMKレーベルのレコードで売られるようになりました。
(MKレーベルのレコードもアプレレフカ工場プレスだと思われます)

 

ほか、Таллин(タリン)、Тбилиси(トビリシ)、Баку(バクー)で生産されたレコードもあったようです。

レーベル面から読み取れる情報

レーベル面の情報は前に中西さんに丁寧な資料をいただいたことがあり、そこから情報が一気に広がげることができました。その後も情報の提供にご協力いただきました。中西さんありがとうございました。

よくある表記

Апрелевский Завод アプレレフカ工場(モスクワ)
Ленинградский Завод レニングラード工場
Рижский Завод リガ工場
Ташкентский Завод タシュケント工場
Московский Опытный Завод モスクワ実験的?工場、1979年より
Ногинский Завод ノギンスク工場(モスクワ)
Всесоюзная Студия Грамзаписи 全連邦録音スタジオ(モスクワ)
Долгоиграющая Dolgoigrayushchayaとかかれていることも、ロングプレー、LPの意味
ГОСТ 5289-50 ГОСТはГосударственный стандартの略で国家標準規格の意味
5289はレコードの登録番号
50,56,61,68,73,80があり、だいたいのプレス時期がわかる

年表とカタログ番号

Д等の後に続く番号から登録された年号やプレスの版がわかるようです。実際にはこの年表以前にプレスされているレコードがあるのであくまで目安になります。

テイク番号※未確定

■盤面余白に刻印されているマトリクス番号の末尾 ( 例: Д – 011201 2−1 )

詳しい方とメールでやりとりした中で話題に上がりましたが、テイク番号の見方として、2−1の場合は2がテイク、1がセッションの番号である可能性があります。

つまり2−1は、1回目のLPカッティング用セッションで、その中での2テイク目、という推測でした。2−1など先頭の数字が1以上から始まる初期盤がいくつもあるので、この説明が一番腑に落ちます。

1951-1975までのレコードの型番規則

■ カタログ番号先頭の文字は録音のフォーマット ( 例: Д – 011201 2−1)

Б 78rpmのシェラック盤、意味は調査中 ベルリナー式?(Берлинер
Д Долгоиграющаяでレコードの意味、モノラル録音で使われていた、33Дもあり
НД Новый Долгоиграющая、新プレスの意味?
С Стерео、ステレオの意味、33Сもあり
СM Стерео/Монауральный 1970年以降のステレオ

■ カタログ番号の数字の先頭0の数でレコードのインチ数 ( 例: Д – 011201 2−1)

0 12inch
無し 10inch
00 8inch
000 7inch

1975以降のレコードの型番規則

■ 先頭文字は録音方式 ( 例: M10 43533 )

M モノラル
С ステレオ
А デジタル
P 復刻シリーズ
R 1992年以降のRussian Disc

■ 数字10桁はジャンル ( 例: M10 43533 )

0 政治・ドキュメンタリー
1 クラシック
2 ロシアのフォークソング
3 ソ連以前の古いフォークソング
4 詩の朗読
5 子供向けのレコード
6 ジャズやロック、ポップミュージック
7 教材
8 外国の民謡
9 その他

■ 数字1桁がインチ数
例: M10 43533 ( 例: M10 43533 )

0 12inch
1 10inch
2 7inch

1932年からのレコードのカタログ番号

78rpm(Gramplasttrest以降)
Б
LP(MONO)
Д
LP(STEREO)
С
LP(DIGITAL)
А
1932 1
1933 3
1934 489
1935 1000
1936 3000
1937 3279
1938 4730
1939 6355
1940 7992
1941 10033
1942 10723
1943 11101
1944 11236
1945 11831
1946 12408
1947 13362
1948 14327
1949 15467
1950 16547
1951 17619 1
1952 18870 115
1953 20990 1051
1954 21961 1712
1955 23237 2410
1956 24355 2657
1957 25814 3527
1958 27762 4126
1959 29810 4860
1960 31812 5860
1961 34094 7395 101
1962 36545 9965 235
1963 38289 10927 473
1964 39779 12246 793
1965 41255 13149 911
1966 43161 14939 1161
1967 45013 16093 1411
1968 46321 19069 1629
1969 47251 21253 1663
1970 47833 24023 1865
1971 27047 2417
1972 29491 3057
1973 31563 3759
1974 33487 4593
1975 35207 5507
1976 36849 6609
1977 39549 8265
1978 40507 9901
1979 41387 11593
1980 42279 13333
1981 43015 15231
1982 43923 17003
1983 44813 18983
1984 45689 20729 1
1985 46081 21293 45
1986 46621 22915 87
1987 47417 24301 175
1988 48023 26129 227
1989 48477 27787 319
1990 48971 29059 411
1991 49417 30929 583
1992 32483 721
1993 32569
1994 32579

 

参考
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9C%D0%B5%D0%BB%D0%BE%D0%B4%D0%B8%D1%8F_(%D1%84%D0%B8%D1%80%D0%BC%D0%B0)
https://ro.wikipedia.org/wiki/Aprelevski_zavod_gramplastinok
https://novikovski.livejournal.com/250707.html
http://records.su/
http://www.russian-records.com/
https://www.discogs.com/
DISCOPAEDIA OF THE RUSSIA PIANISM(CLASSICUS)

Special Thanks
資料/情報提供 : 中西 泰裕さん

情報に間違いがあればご指摘お待ちしてます。


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