クライスラー/ブレッヒのベートーヴェン協奏曲のピッチ調整と復刻

以前ヴォルフシュタール・Homocord盤のピッチ補正をfacebookに投稿したところ、SP盤の研究をされているibotarowさんからソフトについて問い合わせがありました。
ソフトの使い方などをやり取りをしているうちに、HMV盤のクライスラー/ブレッヒのベートーヴェン・ヴァイオリン協奏曲がピッチがバラバラであることが話題に上がり、「音源の提供と復刻Labでの公開OKですよ」と言っていただいたので、今回のコンテンツを作ることとなりました。

実際聞いて、本当にピッチがバラバラでびっくりです。それにCDの復刻盤でしか知らなかったこの演奏がこれだけ生々しい音で入っていたことにも驚きました。
悪戦苦闘した結果、クライスラーの音を身近に聞ける良い復刻になったと思います。

レコードについて

Artists Fritz Kreisler (Vl)
Leo Blech (Cond)
Berlin State Opera Orchestra
Comporser Ludwig van Beethoven
Title Violin Concerto in D major, Op.61
Label HMV
Catalog / Matrix DB 990 [ CWR 631 1A, CWR 632 2 ]
DB 991 [ CWR 633 1A, CWR 634 4A ]
DB 992 [ CWR 635 2, CWR 636 3A ]
DB 993 [ CWR 637 2A, CWR 638 2 ]
DB 994 [ CWR 639 3A, CWR 640 2 ]
DB 995 [ CWR 641 2A ]
Recording 14 Dec, 1926 [ CWR 631 1A, CWR 632 2, CWR 633 1A ]
15 Dec, 1926  [CWR 636 3A, CWR 637 2A, CWR 638 2, CWR 639 3A ]
16 Dec, 1926 [ CWR 634 4A, CWR 635 2, CWR 640 2, CWR 641 2A ]

音源提供:ibotarow さん
参考:https://ibotarow.exblog.jp/3741107/

Download

■ 32bit floatのWavPackとmega.nzでの配信
サイズが大きく保存がやっかいなので、wavpackの紹介も兼ねて作りました。一度目を通してみてださい。

ibotarowさんからのリクエストにより、盤面中に通しで演奏されている2-3楽章は単一トラックとして編集しました。

復刻の流れ

① Wave Pcm Upconvert Playerで元ソースDSD128を編集用のPCM32bit float / 352.8kHzに変換

② Magix Samplitude Pro X3で編集

  • ピッチ補正(Melodyneでピッチ解析しつつ)
  • EQカーブを当てる
  • 内周歪の調整
  • 音量の調整
  • ノイズ・リダクション

では順に解説していきます。

① Wave Pcm Upconvert Playerで元ソースDSD128を編集用のPCM32bit float / 352.8kHzに変換

いただいたソースがDSD128のEQフラットで収録されていたものでしたので、編集加工するためにPCMへ変換します。
この音源はWave Pcm Upconvert Playerで変換してあります。

Wave Pcm Upconvert Playerはもともとファイルをアップコンバートして再生するプレーヤーですが、素晴らしいことにアプコンしたファイル出力に対応しています。なんとDSDまでも対応!音の凄まじさから、ここ10年で一番衝撃を受けたツールです。
このWave Pcm Upconvert Playerで編集用のPCM 32bit flat / 352.8khzのWaveファイルに変換しました。

② Magix Samplitude Pro X3で編集

PCMに変換したら、Samplitudeで編集加工していきます。

トラックを交互に並べ、ざっくりと合わせてみます(画像は調整済み)

ピッチがバラバラという情報通り、盤面の前後でピッチがあいません。


ピッチ補正は、ピッチ解析ソフトのMelodyneで個別のトラックを読み込み解析、ピッチのズレ具合を確認後、Samplitudeでリサンプリング補正しファイル出力、Melodyneでファイルを読み込み解析・・・を繰り返し、解決を目指しました。結構ハードな作業です。最終的には耳で聞いて判断してますが、ツールがあると便利ですね(楽ではない(^^;)


(調整後のMelodyne解析画像)


(個別のピッチについて)

修正後の回転数は見事にバラバラ。78rpmベースであれば0.3rpmくらいは誤差かもですが、1.5rpm以上の変化があると調整なしで聞くのはしんどい感じがします。

内外周でのピッチ差はないようなので、この回転数でエディットしていくことにしました。


全体に当てるEQカーブです。いただいたソースがフラット収録であったで、自分の好きな音に調整しちゃいました。
こんなカーブをフリーハンドで描いてみました。
赤がEQカーブ、オレンジが元ソースの特性、青緑がEQカーブを当てた後の特性になります。

元ソースの特性が1kHz~20kHzまで、右肩に上がっているのが興味深いですね。
70kHzあたりから上がっているのはPCM変換時に発生したものかもしれません。ハイ・サンプリングレートにしたのは、超高域再生のためではないので落としています。


個別面ごとのレベル補正と作業中のメモです。

A面 0.0 dB バランス普通、オケのみのトラック
B面 -0.8 dB ヴァイオリンがオンマイク、カッティングレベル高い、ゴロあり
C面 0.0 dB バランス普通、ヴァイオリンの線が少し細い
D面 0.2 dB バランス普通、ゴロわずかにあり
E面 0.2 dB ヴァイオリンがオンマイク、B面と似てる
F面 -0.2 dB バランス普通、ゴロあり
G面 0.2 dB オケとヴァイオリン少し遠い
H面 -0.2 dB バランス普通、ゴロあり
I面 0.2 dB オケ遠い、ヴァイオリンがややオンマイク、ゴロあり
J面 1.5 dB オケ遠い、カッティングレベル低い、ヴァイオリンがややオンマイク
K面 1.2 dB オケ遠い、カッティングレベル低い、冒頭23秒程度までレベルが低い

収録日・時間が違うので、面ごとに若干マイクの位置が異なっていました。当時の収録機材経由のゴロがある面があったり、K面冒頭の音の小ささ(エンジニアが後で慌ててボリューム上げている?)など、エンジニアさんの苦労が偲ばれます。

(K面冒頭のレベル補正)


盤面終わりでテンポ落としてたり、盤面が始まりで少し走り気味に入っていることもあったりで、盤面つなぎのタイミングをとるのが大変でした。

この辺は最初期特有のものでしょうか。30年代以降でここまで悩んだ録音に当たったことはない気がします。ということは、この時代以降には現場でなんらかのディレクションがあったんだと思います。


ノイズリダクションです。HMV特有のノイズを削る目的で挿入しました。
といっても効かせ過ぎるとゴリゴリクレーターが出来てしまうので、うっすら表面だけしか取れていないです。


その他、内外周の高域特性やらを合わせたり、いろいろコチョコチョして出来上がり!

これだけクライスラーの音が聞けるレコードだと思いませんでした。
クライスラーの品の良さと、ストラディバリウス?のウッド調なサウンドが耳元で高らかに鳴ってます!ブレッヒの指揮、厚みあるオケも素晴らしい!
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はろくな録音がないと思っていた自分が恥ずかしいくらい、素敵な演奏で感動してます。
ibotarowさん良い機会をありがとうございました。

(3楽章最終面・裏面のバッハは75.6rpm相当で補正してます。こちらも絶品!)

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